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2004.10.02 Saturday
予告したとおり、今日は “うぶめ” のお話。“うぶめ” の最も知られたカタチは、昨日も書いたように “産の上にて身まかりたりし女” です。
つまり、お産で亡くなった女性の妖怪なわけですね。
現代も勿論そうなのですが、産婦人科などなかった時代、お産は本当に大変なものでした。
日本中に伝わる “うぶめ” 譚から、オーソドックスな例を俺なりに纏めて書いてみましょう。
───とある男が人気の無い四辻(または橋など)を歩いていた折のこと。一人の顔色の悪い女が、赤ん坊を抱いて木の下に立っている。こんな場所でどうしたことか、と思い話しかけると、女は「子供を抱いてくれませんか」と言う。男が不思議に思いつつも赤ん坊を抱いてやると、女はたちどころに消え失せ、抱いていた赤ん坊が石のごとく重くなりはじめた。男が何とか我慢しつつ抱いていると、女が何処からともなく戻ってきて、礼として男に類稀なる怪力を授けた───
これが、“うぶめ” の話の中でも有名なタイプのもので、“人外のものに怪力を授かる話” とのコラボレートです。
逆に、重くなった赤ん坊を持てなくなってしまい “うぶめ” に殺されてしまったり、抱いていた赤ん坊が際限なく重くなり、とうとう潰されてしまうといった、バッドエンドバージョンの話も伝わっています。
また、昨日書いた[好色一代女]のように、女ではなく赤ん坊のカタチで出現する “うぶめ” もあります。
[好色一代女]の該当部分を抜粋してみましょう。
───蓮の葉笠を着たるやうなる子供の面影、腰より下は血に染みて、九十五六程も立ち並び、声のあやぎれもなく、負はりよ、負はりよと泣きぬ───
これは、主人公の堕胎した赤ん坊、つまり水子のカタチで書かれています。
赤ん坊型の “うぶめ” は妖怪としては凶暴(?)なようで、九州のとある地方の伝承には、赤ん坊の姿をした “うぶめ” に食い殺される、といったものまであります。
これを避けるには履いている草履を投げ、「それがお前の母親だ」と言ってやれば難を逃れることができる、と言われています。
面白いですね。
なんか、“べとべとさん” に共通する部分があるようにも感じます。
さて、“うぶめ” の現れる場所というのは、辻、橋のたもと、川が圧倒的多数を占めます。
[頼光郎等平季武産女値語]でも、産女の現れるのは川岸ということになっていますし、鳥山石燕の[画図百鬼夜行]にも、川に血塗れの下半身を浸した女性(+赤ん坊)として描かれています。
川とは、“境界” です(辻や橋もですね)
あの世とこの世、彼岸と此岸、現界と異界、その “境界” に “うぶめ” は現れます。
堕胎の場としての川、というのも恐らく関係しているでしょう。
“うぶめ” とは、お産で亡くなった女性の妄執である。
[姑獲鳥の夏]の中では、このように説明されていました。
類話として語られる “子育て幽霊譚” にしても、“うぶめ譚” にしても、我が子に対する母親の想いがキーワードになっている話が多いです。
親による幼児虐待が問題になっている昨今。
そういうことをする親には、是非 “うぶめ” の爪の垢でも煎じて飲んでもらいたいものですね。
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2004.10.01 Friday
folkloreのカテゴリということになってますが、あまり関係ない気もします……。まぁ、いいか。
俺が民俗学に興味を持ち始めたのには、理由が二つありました。
というよりも、きっかけが二つあったというべきでしょうか。
一つは、京極夏彦著姑獲鳥の夏を読んだこと。
もう一つは、大学の演習で今昔物語集に関するレポートを提出することになったからです。
共通点は何でしょう?
実は、共通点は “うぶめ” です。
───産の上にて身まかりたりし女、其の執心、此の者となれり。腰より下は血にそみて、其の声、をばれう、をばれうと鳴くと申しならはせり────(百物語評判より)
これが最も有名な、産女のカタチでしょう。
日本各地に同じような形態の伝説、説話、民間伝承が残っています。
また、中国の[和漢三才図会]には姑獲鳥(うぶめどり)の名で、子を攫う妖怪として書かれていますし、[好色一代女]には堕胎した赤ん坊の怪として書かれています。
うぶめ、産女、うぶめの怪、姑獲鳥、うぶめ鳥、と色々なバリエーションのある “うぶめ” ですが、俺には何かと馴染み深い妖怪だったります。
まだ幼稚園に入るか入らないかの頃のことです。
俺が夜なかなか寝ないときは、決まってお袋がこう言いました。
「はよ寝んと、うぶめに連れていかれるでよ」
幼く純粋だった俺は、その言葉を聞くなり布団へもぐりこんだものでした。
その当時の俺にとっての “うぶめ” は、水木しげるの描いた妖怪のイメージでした。
鳥のカタチをした妖怪ですね。
TVでゲゲゲの鬼太郎を見ていたからでしょう。
時は残酷に過ぎ去り(笑)、純粋だった俺がいい加減汚れた大学生になった頃。
本屋で分厚い文庫本を手に取りました。
【姑獲鳥の夏】というタイトルとその表紙、そしてミステリというジャンルに惹かれたのだと思います。
丁度時を同じくして、演習で今昔物語集に関するレポートを提出しなければいけないことになり、大学図書館で色々と調べていたときのこと。
[頼光郎等平季武産女値第四十三]という話が目につきました。
なぜ目についたかと言うと、俺が頼光、つまり源頼光の子孫であるらしいからです。
さて、ここで「マジか!?」と驚いた方へ。
信憑性があるかどうかも不明な上、当然ながら子孫と言っても直系というわけではなく、万一本当に子孫だったとしても、従兄弟のはとこの又従兄弟の親戚の兄弟の子供以上に離れていることは間違いありません。
現代に至るまでどれだけの数の子孫がいるか、想像もつきませんね。
いやはや……。
閑 話 休 題
えーと、頼光の郎等…つまり家来ですね。
その平季武(たいらのすえたけ)という人が、産女に会ったという話です。
“頼光” “産女” この二文字が俺の脳へと強烈にアピールしました。
頼光は俺のご先祖らしいし、うぶめに関しては[姑獲鳥の夏]を読んでるから、知識もそこそこある。
そんな理由でレポートの題材に選んだのでした。
俺の民俗学への関心は、ここから高まっていったわけです。
意外と単純ですね、俺。
明日は産女について、もう少し詳しく書こうと思います。
しかし、自己満足な世界だ(笑)
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